その音は突然聞こえ出した。まわりの同僚も気がついたようで「どこか、受話器が
はずれているじゃないか」と、手のすいている者達が片っ端から電話を確かめる。「
電話じゃない」とすると、何か他の機械の警告音かと、ファクシミリなどをチェック
。しかし、原因はわからない。良く耳をすますと、どうやら私の足元の方から聞こえ
てくる。足元の鞄をどかして、奥の扉を開ける。ここはディーリングルームであり情
報端末用のモデムとか本体がその中に所狭しと押こめられている。どうやら、この中
らしい。しかし、ここは専門家を必要とする。ただちに総務部に連絡し担当者を呼び
つけた。「変な音が聞こえるだろう」と、担当者に告げた。担当者が足元の機械を見
ようとしてかがみこんだ時、ふと視線にあるものが止まった。其のとき、私は心のな
かで叫んだ「すべての謎は解けた!」しかし、その事実を公表するかどうか、一瞬の
間、迷った。私と総務部のおにいちゃんを囲む人々は真実を求めている。私は、おも
むろに、さきほどどかした鞄を開けた。ピーとひときわ甲高く音がした。私の携帯電
話の電池切れブザーであった。ふとみると皆の視線が、そして、口々に・・・・・。
株価先物の買いポジションを持っている部長が外出先から、株先担当者に電話をい
れた。相場の動向を聞きたかったらしいが、最後に担当者はポジションをどうするか
尋ねた。部長は「うっちゃっとけ」と一言。「うっちゃっとけ」とは「放っておけ」
という意味の方言。ちゃきちゃきの江戸っ子である担当者は「はい」とためらいもな
く、数百枚の買建て玉を返済すべく、「売り」を出した。「売っちゃった」のである
。部長が外出先から戻ってきて真っ青になったことは言うまでもない。
あるディーラーの話。仕事を終え、同僚と久しぶりに一杯ということになった。多
少、飲み過ぎたのか帰りの地下鉄を乗り過ごした。銀座線の上野駅で降りるべきとこ
ろ、目を覚ましたら浅草の手前の駅である田原町であった。彼は反対のホームへ行こ
うと、何を思ったか線路に飛び降りた。銀座線は線路脇に高圧電線があるにもかかわ
らずである。なんとか事なきを終え、無事反対側ホームによじ登った彼は、まもなく
来た電車に乗り車内放送を聞いて愕然とした。「次はー、あさくさ、浅草」。おわか
りかと思うが、彼が目をさました時乗っていた電車は浅草を既に折り返していた。わ
ざわざ危険を侵して反対ホームに行く必要は全くなかったのである。
6年ほど前、私は研修でニューヨークにいた。国連本部のすぐ近くでアパートを借
りていたのだが、友人とそのアパートのエレベーターに乗っていた時の話。同じ研修
仲間(日本人)数人と外出しようとエレベーターに乗った。途中の階でいかにもニュ
ーヨーカーらしい女性が乗って来た。友人の一人がこともあろうに、卑猥な日本語を
連発。女性はにこやかに微笑んでいただけであった。途中、エレベーターが止まり、
友人は一階についたと勘違いして降りようとした。その時、その女性が一言、「五階で
す」。非常にはっきりとした日本語であった。それから下につくまで我々は真っ赤に
なりうつむいたままであった。多分、彼女は国連にでも勤めていたのであろうが、外
人は日本語はわからないときめつけるのは危険である。
債券先物オプションが始まったばかりの頃の話。アウト・オブ・ザ・マネー(行使
価格が実際の価格からからかなり離れた)のオプションをあるディーラーが買おうと
した。1銭に買いが入っていたが(オプションの価格は1銭単位)、彼は0銭で買い
を入れたらどうなるか試してみようと思ったらしい。そこで、0銭で100億円の買
いを端末で入力した。すると、いきなり成り行きで100枚の買いとなってしまった
。実は端末の指し値に0を入れると成り行きになってしまうのである。取り消しがど
れだけ間に合ったかは不明だが損を被ったことは確かであろう。ただほど高いものは
ないということを証明した例である。
知人がかぜをひいた。鼻がやられたようなので、鼻炎用の薬を薬局で買い、さっそく
飲んで見た。しばらくたって、妙にふあふあとした気分となってきた。そして、急激
に眠気を催し、仕事中にもかかわらず寝てしまった。起きてから、どうもおかしいと
知人は、薬の注意書を良く読み直して唖然とした。この薬は1錠を1日2回朝夕にお
飲み下さいとあったが、この知人はなんと、2錠を1日1回と読み間違えたらしい。
良い子はけっしてマネをしないように。
ニューヨーク研修時代の話。休日を利用して友人達とイエローストーン国立公園に行
ったときのことである。飛行場からはレンタカーを借りてロッキー山脈へとむかった
。世界最初の国立公園だけあって非常に雄大でまさに大自然を満喫した。そして、帰
り。当然レンタカーを返すときはガソリンを満タンにしなければいけない。イエロー
ストーンでガソリンを入れた時はなんと、あんな山奥で「いらっしゃいませ」と日本
人アルバイトがガソリンを入れてくれたが、普通アメリカでは自分で入れるセルフサ
ービスとなっている。飛行場近くのガソリンスタンドに寄った。セルフサービスのス
タンドは始めてで、ホースとガソリン口の大きさがあわないなど、苦労しながらなん
とか満タンとした。その時、たまたま近くにいたおじさんが何か言っていたのだが、
こちらはガソリンを入れるのに必死で、日本人得意の笑顔でフムフムとうなずいてい
た。あとで、もう一台の友人の車が我々に追い付き、多少、英語が話せる友人がその
おじさんの話をきいたところ、「おらー、あのニッポン人にそのホースはハイオクだ
ぞと何度も注意したのに、あいつは返事だけして結局、全部入れちまった。」てなこ
とを言っていたらしい。どおりで口のサイズが合わなかったわけだ。と私は何事もな
かったように、レンタカーを返した。すみませんでした、ハーツの方。